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クラブの活動報告 Ryla

記念講演 「危機に求められる人材」 1999年5月3日(月)

水野弥一(京大アメリカンフットボールチーム監督)

ただ今ご紹介に預かりました水野です。我々はアメリカンフットボールをやっていますので、スポーツを中心にリーダーというのはどうあるべきかお話したいと思います。 我々は勝つ為にアメリカンフットボールをやっておる。勝つためには、皆がその気になることが一番大事です。そのためにリーダーは皆をその気にさせることが大事です。 我々が何故アメリ カンフットボールをやるかというと、アメリカンフットボールは特殊なスポーツで、作戦と戦術が重要で、多少選手の出来が悪くても、戦術でカバーできるから、京大でも、勝ち目があるからです。  

リーダーとしての監督の役割は選手の人材育成と環境作りと勝つための作戦を立てることです。  

1年生は、強制せず、楽しく、自由に練習させる。1年生はお客さんです。基本を教え、体力をつけさせる。そうすると、自然に面 白くなってくる。そうなるとやる気が出てきてどんどん練習するようになる。良循環です。  

監督、コーチのリーダーシップに一番大事なのは、いかに上手く教えるかということです。教えるには、その人に合ったように教えることが大事で、初心者と上達者では全く違います。初心者には先ず基本を理屈と共に教える、理屈を理解させるために、コミュニケーションが大事です。 

或る程度上達して来ると、壁に突き当たる。何度も練習を繰り返すと、ある日突然上手くできることがある。その時に良いイメージを掴む。これが「開眼」です。これを繰り返して上達していく。この開眼は監督が教えることはできない。本人が練習を通 して掴んで行く外ないんです。  

次に、キャプテンのリーダーシップによってチームは大きく変わります。或る年、非常に強いチームができたが、大事な試合で怪我人が多く出て負けた。次の年は前年のレギュラーの殆どが出てしまい、新チームは非常に弱いチームになってしまった。しかしここで僕が目を付けた奴がいた。彼は他大学に入学して3年まで通 ったが、どうしても京大でフットボールをやりたいと、僕に相談に来た。体が小さく、足が遅いのでは見込みがないと反対したが、彼は見事に京大の入試に合格して、入部して来た。彼は選手としては見込みは無かったが、3年間下働きの役割に徹し、陰日向なく下級生の面 倒を見ていたので、僕はこれは見込みがあると考え、選手達が選んだキャプテンを認めず、彼を指名した。選手達は文句を言ってきたが、押し切った。 

2月の試験の最中に、夜中の12時過ぎにクラブハウスで、そのキャプテンの顔を見つけて聞くと、練習をやってないと言う。「今年は見込みが無いといって、やる気が無いなら止めてしまえ。」と言った。すると彼はそれから新4年生全員を電話で集め、夜中の2時から練習をやった。翌朝6時に見に行くと、4年生全員が2月の雨の中で練習をやっていた。この時からキャプテンのリーダーシップが確立した。彼は、自分が試合に出られる可能性は0にも拘わらず、先頭に立って激しい練習をし、自分は体がボロボロになっても練習をした。そのキャプテンの私心のない努力で、チームは纏まり、見事に立ち直って、学生日本一になった。もし彼がいなかったら、絶対優勝出来なかった。 

一人の人間がそれ程、集団に大きな影響を及ぼすということを最後に申し上げて、話を終わります。  

ご静聴有難うございました。(文責 小山)

●講師紹介
京都大学大学院工学研究科修士課程卒業。(株)スズキインターナショナル役員。(株)修英役員。(有)アクト代表取締役。関西学生アメリカンフットボール連盟理事。京都大学アメリカンフットボールチーム監督として、関西リーグ優勝(うち2回同率)10回、甲子園ボウル優勝6回、ライスボウル優勝4回。著書 「一つのことに一流になれ」(毎日新聞社刊)「最初の一歩、最後の一歩」(タッチダウン社刊)


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