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認証状伝達式記念講演
「世界の中の日本」  京都大学 矢野 暢教授
「世界の中の日本」について考えることは今、日本が世界の国々から、どのように見られているかということです。

先月、私は以前2年間住んだことのあるマレー半島の南部タイのドンキレクという村を20年振りに訪れました。当時、その村には電気は勿論のこと、トイレもなく、病気になると医者はいないので、精霊祈祷師に頼るというような所でした。その村に電気がひかれ、カラーテレビが入り、「ドラエモン」や「一休さん」が大変な人気だったのです。オートバイや電気冷蔵庫も入っていました。総て日本製の物です。そこで、私は、日本は恐しい時代を迎えているなと感じたのです。

6月、ヨーロッパ行きの機内で読んだ外国の雑誌に、スコットランド政府の伝統的なウイスキー産業を「日本に乗取られた」といううらみをこめた記事がでていました。

8月、ハワイ大学のサマースクールに講師として招かれたのですが、受講者の8割が、英語も分らず、ノートもとらず、時差ぼけでぼーっと坐っている日本の若者達だったのです。事務局の人の話によると年々このような日本人が増えているそうで、ここにも日本の進出をみたのです。

そして、8月下旬、ルックイーストを打ち出し、アジアで最も親日的といわれるマレーシアでの日本批判です。これも日本人の傲慢さから起ってきている問題だと現地の一流新聞の編集長が教えてくれたのです。

タイのドンキレク、スコットランド政府の記事、ハワイ、そして、マレーシアの日本批判、何れも私が最近海外で体験したことなのですが、このような現状が日本の姿なのです。つまり、世界の中の日本とは、単なる日本列島ではなく、外に出て行く日本製品であり、至る所に出かける観光客、或いは、商社マンとして活躍している日本人です。そして、外で作られるイメージ、物のフロー、人のフロー、国家的イメージ、 これが日本です。

地球上もはや日本人、日本商品のない所はない。物まねかも知れないが、日本商品の優秀性は皆が認める。文明国家として日本をみた場合、日本は凄い国だと認めてくれるけど尊敬はしてくれない。文化国家としての日本はどうかというと、日本には素晴らしいものが沢山あるのに、今度は外国の人達には分って貰えないという壁にぶち当るのです。そして、日本がよくなると、必ず黄禍論(Yellow Peril)に連ながって行きます。

我々は、固有文化を持っている日本を、もっと少ない摩擦で国際社会に定位させること、日本を複雑な国際社会の中に、うまくフィットさせることが大事だと思います。これが真の国際化ということです。

最後に、国の中立について考えてみます。20世紀は戦争と革命の時代といわれています。これから先、戦争が始まると世界戦争です。ヨーロッパでは、20ヶ国以上の国が中立を宣言するでしょう。しかし、歯止めがないと防ぎようがないのです。本当に中立を守れる国は、2ヶ国だけです。第1次、第2次世界大戦でも、中立を守れたのはその2ヶ国です。守れるというのは、中立を宣言しているから守れるのではない。あの国だけは大事にせんといかんということで皆が中立的立場を認めることで守れるのです。

2ヶ国、それは、スイスとスウェーデンです。その理由は簡単です。スイスは敵味方を問わず絶対信用のある銀行を持っているということです。スウェーデンはノーベル賞です。人口800万人の小さい国ですが、今日までノーベル賞をだし続けているのです。

つまり大事なことは、永遠に、この場所に日本を置いておく、これが日本を守るということですが、他の国が我々をみて、どんな事態が起っても守ってやらねばならぬ と思わせねばならない。しかし、今の日本には、それがないということです。

世界の多くの国の人達が、日本なんかない方がよいと言っている限りは、第3次世界大戦でも起きれば、仮に日本が中立を宣言しても、あっという間に潰されてしまう。そういう歴史の洗礼は多いということです。

だから、我々の使命は世界の誰れもが認める普遍的な価値を、この日本の中から作りだして行かねばならぬ ということです。
(1984年11月26日)

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