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10周年記念講演
●演題 「鶴見緑地の野鳥たち」
●講演者(財)日本野鳥の会会員 井上昇吾氏
●内容 鶴見緑地に生息あるいは飛来する野鳥たちを、スライドと楽しいお話で紹介。
●講師紹介 井上氏は、鶴見区在住。花博記念公園「鶴見緑地」における野鳥観測を10数年にわたって継続し、バードウォッチングの指導もされている。
 「どうも始めまして、只今ご紹介いただきました 井上でございます。私は今ご紹介頂きましたように、主に大阪府下及び大阪府の周辺地区で、ボランティアの指導員として活動しております。その 中で活動の中心となります場所が、この鶴見緑地 でございまして、毎月一回他の3名の仲間と一緒に、活動をしております。今日はその観察会の中で色々確認した結果 ですとか、私の個人的な観察の内容について、少しこの場所をお借りしてご紹介したいと思います。  

 最初に、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、簡単にこの鶴見緑地の歴史について、ご案内したいと思います。先ず鶴見緑地が造成され始めたのは、何と昭和16年に遡るそうです。 途中戦争の影響とかで、造成工事が中断したりしたそうですけれども、本格的に造成が再開されたのが昭和45年あたりだった、というお話を 承っております。

 昭和30年代、40年代と申しますと、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、この辺り一帯というのは、まだまだ田舎の風景が残っていまして、一面 に蓮田が広がっていたり、水田が広がっていたり、といった状況でございました。今はそういった昔の面 影というのは殆ど見当たらないんですけれども、よく探して見ると、緑地の周辺に猫の額ほどの蓮田が残っていたり、水田があったりする場所がございます。

 そういった所をよく観察してみますと、非常に 私は興味深くそれぞれ観察しておるんですけれども、「ケリ」という鳥が棲息しています。ケリという鳥はチドリ科の仲間で、大型のチドリという風に我々は確認をしておるんですけれども、このケリというのは主に田圃を棲息場所にしています 。巣を作るのも田圃ですし、餌を採るのも田圃、 田圃がなければ生活ができない、といった鳥です 。因みに今年はこの鶴見地区周辺で、3羽のケリの雛が巣立ちをしました。あくまで我々が確認した範囲内でのことなんですけれども。ですから、現在この鶴見地区で、推定10羽、ケリが棲息しています。因みに大阪市内で、このケリが棲息しているのは、この鶴見地区だけになってしまいました。
 それから、その後鶴見緑地が自然公園として、 非常に良好な自然林を有する時期が長く続いたわけですけれども、ご存じのように花博の工事によ って、我々にとって非常に惜しい結果になってしまいました。ただあの花博の喧騒の中で、先程少し休息されたあの大池に、カイツブリという、主に 魚を潜って捕る小鳥がいるんですけれども、そのカイツブリという鳥があの花博の喧騒の中でずっと生活をしていた、という確認を我々はしております。その後花博が終りまして、1991年の9月から、我々の観察会を毎月始めるに到ったわけです。その一部をこれから少しスライドを使って ご紹介したいと思います。

木の実にやってくる鳥たち

 今日植樹をされましたエノキ、モチノキ、ムクノキの木の実にやってくる鳥たちを先ずご紹介します。

ヒヨドリ
 ヒヨドリです。鶴見緑地では周年観察されています。昆虫とか木の実とか、何でも食べる鳥ですが、都市公園に最近かなり増えてきた鳥です 。
ツグミ
 ツグミです。冬鳥の代表的な鳥の一つです。以前は焼鳥の好材料として霞網で一網打尽に傷めつけられた鳥なんですけれども、最近はそういう心配もなく、元気に飛び回っています。
 カワラヒワです。大変植物質の餌を好む鳥でして、ご覧のように頑丈な嘴で植物の種なんかも、 バリバリと元気よく砕いて食べる、非常に可愛くてきれいな鳥です。
 シメという鳥です。主に大阪近辺では冬にやって来る鳥なんですけれども、先程のカワラヒワの仲間でアトリ科に属しています。やはり頑丈な嘴で、木の実とか植物の種子なんかを、バリバリと好んで食べる鳥です。
 ご存じの方、沢山いらっしゃるかと思いますが 、ムクドリという鳥です。今年は鶴見緑地の中でも、かなり繁殖例が多く確認された鳥です。

一年中観察される鳥たち

 ここからは鶴見緑地で周年、一年中観察される鳥たちの一部をご紹介したいと思います。

 先程一寸申し上げましたカイツブリです。大池には現在3つがい程度、棲息していると思われます。早い個体は今年の4月に、既に2羽の雛をかえしました。例年これから8月にかけて、別 のつがいが大池の蓮の中に、営巣することが確認されていますので、その辺も我々としては楽しみにしています。
 ゴイサギという大型の鷺です。なかなか夜行性の鳥ですので、昼間はあまり活動しません。特に大池の葦原の中なんかを注意深く探してみられると、多い時でざっと30羽程度のゴイサギが確認されると思います。主に魚を岸辺から狙って、捕って食べる、一寸意地の悪い鳥なんですけれども 、姿は非常に可愛い鷺です。
 コサギです。白鷺と一般にいわれる鳥の仲間には、大体4種類いるんですけれども、その中で最も小さい種類がこのコサギという種類です。ねぐらにしている場所は、多分鶴見緑地の外周部にあたる部分だと思われています。昼間よく観察され る鳥です。
 アオサギです。先程のコサギとは反対に、日本の鷺類の中では最も大きな種類にあたります。大体身長が1メートルを越える種類です。非常に擬態する のが上手くって、例えば大池のあの中国風の建物の天辺なんかにちょこんと止まってですね、パッと周囲から見ると、なかなかいてるのんい気付かないという風な、忍者的な鳥でもあります。
 皆さんお馴染みのカルガモです。東京の三井物産でしたでしょうか、あのニュースで一躍有名になりましたけれども、この鶴見緑地にも相当数のつがいが繁殖しています。例年韓国庭園でも2、3羽の雛がかえっておりますし、大池にもつい一ヶ月前までは、非常に小さな雛が6羽、親子連れで池の周囲を泳いでいたという風な、非常に可愛い鴨です。
 バンという鳥です。大体葦原の中なんかに棲息していますので、なかなか目につくことが少ないかなと思いますが、嘴の付け根の赤い部分が非常に鮮やかな、一寸愛らしい鳥です。
 先程申しましたケリという鳥です。大型のチドリに属します。ご覧のように非常に清楚な感じで 、一見優しそうな鳥に見えるんですけれども、雛を守るためには、カラスにも立ち向かって行きますし、人間にも立ち向かって来るという風な勇敢な一面 を持った鳥でもあります。
 コジュケイ という鳥です。先程植樹をしたときにですね、森の中からこの鳥の声が聞こえていたんですが、気付かれた方もいらっしゃると思います。「チョットコイ、チョットコイ」という風な聞きなしで有名な鳥です。
 キジバトです。昔は山間部にしか棲息をしていませんでした。ところがやはり開発の波に揉まれて、生息地を追われて、平野部に止むなく出て来た鳥の代表選手です。鳩類は比較的環境に対する順応性がありますので、その辺で都市部にも定着できた好例ではないかなという風に思います。
水辺の宝石といわれるカワセミです。この鶴見にも推定で2羽、棲息をしています。小さな鳥なので、見つけるのがなかなか難しいのですけれども 、早朝なんかに池の畔でですね、じっとしていると、直線的についーと飛ぶのが確認できるかと思います。
コゲラです。キツツキの仲間で日本で一番小さな種類です。数年前までは鶴見緑地には棲息していませんでした。花博後最初に確認したのは、昨 年の秋です。9月だったと思います。それ以後定着したように思われます。キツツキの仲間がやって来たということは、それだけ植生が回復に向かいつつあるのかなという風に、少し嬉しく思っている次第です。 
ヒバリです。声を聞く機会は沢山あるかと思うんですけれども、なかなか姿を見るチャンスというのは少ないかと思います。ヒバリの多い場所としては、公園内のあの芝生の辺りなんかを注意してご覧になると、芝生の上を虫をついばみながら、チョロチョロ歩いているところをしば しば観察することができるかと思います。 
モズです。小さな猛禽といわれている小鳥ですけれども、緑地の中でも比較的外周部の森なんかに周年棲息していまして、今年も何つがいか営巣して、子育てをそろそろ終わるかなという時期を迎えています。  
シジュウカラです。大阪市内の都市部の公園なんかで、比較的良好な林がある場所では普通 に見られる鳥なんですが、残念ながら鶴見緑地では非常に少ない鳥の一つです。我々としては、是非ともシジュウカラにやって来て欲しい、という願いを込めて、昨年秋に巣箱を掛ける準備を始めました。今年の繁殖期に間に合うように、巣箱を掛けたわけなんですけれども、その所為かどう か、今年は5月に、シジュウカラの雛2羽を確認 しました。花博後我々が確認したのは、多分初めてではないかなと思います。  
鳴き声の非常にきれいなメジロです。メジロも 今年は鶴見緑地の中で、非常に沢山雛が巣立っています。林の中でじっとしていると、メジロの群が木の間をチョロチョロ渡りながら、通 過していくのが観察できるという風に思います。 
ご存じのスズメです。スズメも立派な野鳥の仲間です。ただスズメというのは、人間の生活の場所に対応して生活をしています。彼ら自身は非常 に弱い存在なので、多分人間の生活の場所に近い所で住むことによって、外敵から身の安全を守ろう、という風な考えではないかなと思われています。 
カラスです。今日は1種類しか、スライドを用意できなかったんですけれども、普通 我々が観察できるカラスというのは2種類います。今日スライドでご紹介しているのは、ハシブトガラスという、比較的山あいの地方に多いカラスです。このカラスの特徴というのは、おでこが非常に出っ張っていて、嘴が非常に太いという特徴を持っています。比較的平野部に多いのは、ハシボソガラスという種類なんですけれども、鶴見緑地ではこの2種類のカラスを比較的多く観察することができ ます。  

夏に鶴見緑地にやって来る鳥を2種類

 ここからは夏に鶴見緑地にやって来る鳥を2種類程ご紹介したいと思います。

先ずコチドリです 。先程のケリと同じ仲間なんですけれども、非常に可愛くて小さい、それでいて目の周りの黄色い アイリングが非常に特徴的な鳥です。彼らは南の地方、例えばインドネシア、フィリピン、 あの辺りから春先に日本へやって来て、繁殖をして、また秋口に南の国へ帰って行くという生活をしています。
それから皆さんご存じのツバメです。彼らもや はりコチドリと同じような生活をして、日本へやって来ます。ツバメも先程のスズメと同じように 、人家の近くに営巣をします。やはり彼らも人間の生活の場に近い所に住むということによって、 外敵から身の安全を守っているという風に考えられています。

に鶴見緑地にやって来る鳥達

 ここからは冬に鶴見緑地にやって来る鳥達をご紹介します。

 先ずマガモです。鶴見緑地には、大体9種類から20種類の鴨たちがやってきます。その中で1年中いる鴨というのは、先程ご紹介したカルガモだけです。他の鴨たちというのは、主にシベリア辺りから、初冬ですね、9月の終りから10月あたりにかけて日本にやって来る鳥達です。
これはコガモです。マガモに較べると非常に小 さくて可愛い小鳥なんですが、鶴見緑地では比較的少ない種類に挙げられる鴨です。
ヒドリガモ です。真ん中にいるのが雄で、顔の中央に黄色いストライプが走っているのが特徴的な鴨です。今年は残念なことに、1羽だけ、羽根を傷めたヒドリガモが、大池にまだ今現在残っています。彼は多分この夏を大池で過ごして、来春仲間達と一緒に、北の国へ帰って行くんではないかなと思っています。 
ハシビロガモです。非常にこの鴨は特徴的でして、嘴がですね、横に平べったくなっているんで すね。そのあたりが他の鴨に較べて非常に特徴的な部分です。 
ホシハジロという海水性の鴨なんですけれども 最近非常に内陸部でも増えてきた鴨です。大阪府下というのは、このホシハジロの有数の越冬地となっています。このホシハジロも残念ながら、羽根を傷めた個体が、今現在大池に棲息していま す。 
キンクロハジロという鳥です。右の2羽が雄で左の2羽が雌です。先程のホシハジロと同じく、本来は海水性の鴨なんてすけれども、やはり内陸部に棲息地を拡げつつある鴨です。  
歌に詠まれた都鳥というのは、正しくはユリカモメというカモメの仲間です。 今年、といいますか、昨シーズンの冬は、珍しくこのユリカモメの大群が鶴見緑地へやって来まして、非常に池を賑わわした鳥です。非常に餌を採るのがガメツクて、他の鳥が採っている餌を横取りしたりする、非常に意地の悪い鳥です。 
キセキレイです。セキレイの仲間なんですけれども、夏の間は、山奥の源流部に近い辺りで、生活をしてまして、冬になると、平野部へやって来るという風な生活をしている鳥です。  
ホオジロです。従来鶴見緑地ではあまり多くない鳥だったですけれども、だんだんと冬の時期なんかには、林の中にやって来て、「チチ、チチ」 と大変元気に鳴き廻っている姿が観察できるようになりました。 
この鳥はコサメビタキと申しまして、春と秋に小鳥たちの渡りがあるわけなんですけれども、その渡りの時期に、大阪地方を通 過して行き、信州辺りへ渡って行って営巣する鳥なんです。ですから 春と秋の一時期だけ、大坂城公園ですとか、鶴見 緑地ですとか、そういう場所を通過して行くという鳥です。  
キビタキという非常に美しい鳥です。この鳥もやはり渡りの時期に、大阪市内を通 過して行く鳥です。バードウォッチャーの中でも、非常に人気の高い美しい鳥です。 

 今ご紹介したのは、ざっと35種類ぐらいの鳥たちなんですけれども、鶴見緑地には、これの殆ど倍ぐらいの鳥たちが、年間を通 してやって来ます。その中でやはり鶴見緑地というのは、非常に問題点も多くて、池の水質ですとか、植物なんかを育成保護するために薬剤を散布されたりとか、動物達にとっては非常に厄介な問題を抱えています。 そういうことに公園の事務局の方々が対応されながら、今日まで自然の植生が回復されつつあるというのは、私達にとっても、非常に嬉しい限りで あります。  

 我々が1991年の9月から今まで、大体3年と10ヶ月程度でしょうか、その間に観察を続けて参りまして、先ず感じたことは、年々野鳥の数も種類も増えつつあるという嬉しい結果 です。
 因みに今年の1月に、毎年大阪府下で水鳥のカウン ト調査を我々野鳥の会でやっているんですけれども、今年初めて、鶴見緑地にやってくる鴨達が1000羽を越えました。この数も毎年倍々ゲーム で増えつつあるのが現状です。その分、多分周囲の環境が悪化しているのかも知れません。
 行き場をなくした鴨たちが鶴見緑地へ集まって来るのかも知れません。ですがやはり、沢山の鳥たちがやって来るということは、我々としては 非常に嬉しく思っています。

  この場をお借りして、是非皆さん方にお願いをしたいことが有ります。それは皆さん方の身近にある自然を、ほんの少し注意深く見て頂きたいということです。普段何気なく目にされている風景の中にも、色んな自然の営みが息づいているはずなんです。ですから、ひょっとすると、今まで気付かなかった非常に可愛い野草の花が、足元に咲いているかも知れません。或いは電線に止まっている鳥が、スズメだけではないことに気が付かれるかも知れません。
 そういうことによって、自然を愛する気持というのが、先ず自然を知ることから始まるんだと思います。一人でも多くの身近な自然のよき理解者が増えて頂くことを、我々は常々望んでいます。そのことによって、10年後、或 いは20年後、この鶴見緑地が私達市民にとっても、野性の生物達にとっても、かけがえのない素敵な公園に成長していくように皆で見守っていきたいという風に考えています。  

今日は植樹を8本、記念としてなされましたけれども、やがては大きな樹に成長して、沢山の実を付けることと思います。どうか皆さん方の将来 も、そして鶴見ロータリークラブさんの発展も、 この8本の樹と共に成長されますようにお祈り致しまして、私の話を終わらせて頂きたいと思います。  

どうも有難うございました。

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